経営者の具体的な業務とは

経営者のアウトプットとは、マーケ、デザイン、エンジニアリング、カスタマーサポート、セールス、採用、経営管理、カルチャー作りなどすべてにおける判断だ。良い判断を競合より素早く下すことができると、事業が成長する。多岐に渡る業務において正しい判断を素早く下すためには、大量の正しい情報が必要となる。よって、経営者は、日々の業務時間の大半を情報収集に当てることになる。正しい選択が素早く下される状態を担保するために、自分の代わりに選択を下す者を採用し、選択権限を移譲することも業務の一つだ。ただし移譲後も、移譲される側から報告を受け、情報収集はし続けないといけない。選択を委託するか否か、正しい人に委託できているかを、経営者は選択し続けなければならない。

現場の人間の方がより多くの正しい情報を持っていることがある。自然と、現場の人間が判断した方が良いのではないか、という疑問が生まれる。確かに、日々の業務に関してはそうで、ここに関して選択権限を移譲できないと、経営者がパンクする。一方で、現場の人間は日々の業務の執行で忙しい。チーム横断的、あるいは社外からの情報収集に割ける時間は、自然と限られる。よって、日々の業務の執行範囲から外れる情報収集や判断は、やはり経営者が担わなければならない。*1

会社のフェーズによって経営者の業務内容は異なる。最初は、マーケ、デザイン、エンジニアリング、そして最低限の経営管理しか仕事がない。この頃は不確実性が非常に高いため、それを許容できるだけのインセンティブを持つ数名(多くの場合経営者を含む)ですべての業務をこなし、その過程で選択を下す。ここで正しい選択を素早く下し執行できた場合、次にカスタマーサポート、セールス、採用、人材配置、カルチャー作りなどがドカッと追加され、フェーズが進む。一気に業務が増えるため、先程述べたように採用した人に対して現場の選択権限を渡していく。

経営者のもうひとつの仕事は、ビジョンとカルチャーを体現し、その積極的な提唱者であることだ。自身も元起業家で、FacebookやAsana、Pinterest、Slackなどに投資するAndreesen Horowitzのベン・ホロウィッツによれば、経営者自身がビジョンとカルチャーの発案者である必要はない。誰のアイデアであってもいいが、それを採択し、日々体現し、提唱するのは経営者だ。そして、社内のリーダーであるマネジャーやリードプレイヤーに同じことを求めるために、まずは経営者が率先して行わないといけない。

ビジョンが重要な理由は、ビジョンとは戦略をストーリー化したものだからだ。最近はビジョンというと、ワンセンテンスから成るキャッチコピー的なものを想像する人が多いが、そういった形式である必要はないと思う。*2自社の強み、現在のポジション、そして今後どんなユーザーに向けて、どんな価値を提供するために、どんなプロダクト開発・マーケ・セールス・組織づくりを行っていくか、それが戦略だ。そしてそれを他人に理解してもらうために、ストーリー性を感じる言葉にまで落とし込んだ結果がビジョンだ。

そもそも戦略は必要なのだろうか。必要性以前に、戦略を意識していないチームでも、必ずなんらかの戦略を立てている。サービスデザインのプロセスそのものが戦略を立てることと同義だからだ。初期の戦略は日々変わるが、だからといって戦略がない訳じゃない。新しい戦略を日々採択しているだけだ。そしてPMFを経て、中長期的な戦略を立てることができるようになる。最初はプロダクトを作る人間の間で、自然と立てられ、共有されていた戦略を、会社のフェーズが進むにつれて複数部署に渡って共有する必要が出てくる。それを可能にするのがビジョンだと思う。よって、戦略が変わればビジョンも変わるべきだと思う。

カルチャーが大事な理由は、優秀な競合企業は優秀なカルチャー設計し、実装しているからだ。人間が集団になると、自然とその集団特有のカルチャーが生まれる。仕事効率化を意識してカルチャーをデザインした企業と、社員を野放しにして、勝手に育ったカルチャーを採択した企業とでは、日々の業務の効率は大きく異なりそうに思う。ベン・ホロウィッツのWHAT YOU AREによれば、リーダーが守らないカルチャーを従者が守ることはない。私の経験上でも、部下には、仕事における態度や進め方を(恐らく無意識に)真似されると感じたことが何回かある。*3よって、会社と一体である経営者自身が、まずカルチャーデザインが行われる状態を作り、自分自身がカルチャーを体現することは、企業の優位性を築く上で欠かせない。

結局抽象的だし、単純化しすぎている部分もあるし、ほぼベン・ホロウィッツが言っていたことだけど、これでも私の中では少し解像度が上がったので良しとする。

最後に、たまに誤認識している方がいるので付け加えておくと、私自身は元々CEOでも代表取締役でもない。現在長い休みを取っており、その結果として経営陣でもなくなった。ただ、スタートアップの創業メンバーとして、そして経営者の仕事を一部委託される側として、経営とはなんぞや?を改めて理解したいと思い、整理してみた。また、経営者だけでなくマネジャーやリードプレイヤーなどの職種においても通ずる部分があると思う。

参考文献

*1:チーム横断的な判断の例として、ベン・ホロウィッツはサービス全体の質の担保、サービス全体の方向性、(必要な場合において)個別のサービス同士の連携、現状見れていない新しい情報やデータの発掘、を上げている。

*2:キャッチコピーはPRという限定的な用途を満たすものなので、ビジョンそのものとは別と考えてもいいかもしれない。キャッチコピーがビジョンから外れてしまっていては誰にも響かないので、ビジョンに沿う必要はあるが、順番はビジョンが先、キャッチコピーが後、かなと思う。

*3: 面白いことに、私の強みばかり真似する人と、弱みばかり真似する人に分かれていた気がする。前者を採用しないといけない。